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僕は城のドアを激しく叩く音で目が覚めた。
昨日は遅くまで呪文の練習をしていたし、ソフィーさんもハウルさんもいないから、家事を全部やらなくちゃ
ならなくて、すごく、疲れているんだ。
「うーん……」
そう、お二人は今日の結婚式の為に、昨日から王宮に泊り込んでいるんだ。
結婚式は王宮の離れにある教会で行われる。式の開始は、午前十時。
ふと時計を見ると、
「じ、十一時!?」
ばっとベッドから飛び起きて、とりあえず城のドアを開ける。カルシファーはハウルさんが連れて行ったから、
今は居ない。
「マーサ……!」
そこにはキングズベリーの町の喧騒を背に、怒った顔で立っているマーサがいた。
今日のために買ったという、かわいいワンピースを着ている。
そう、今日は、朝の九時にマーサの泊まっている宿に迎えに行くと、約束をしていたんだ。
「バカマイケル! もう式は終わっちゃったわよ! もうすぐパーティーが始まるっていうのに、何やってるの!」
「ご、ごめんマーサ。十分だけ待って」
「早くしなさい!」
マーサの声に引っ叩かれるようにして、僕は城の中へ駆け戻った。顔をおざなりに洗って、歯を磨きながら、
今日のためにハウルさんが買ってくれたスーツを用意した。寝癖を撫で付けて、スーツを着る。
家の中に僕が四、五人いるかと思うほどバタバタと準備して、僕は城を後にした。
マーサは教会へ行く途中、ずっと怒っているようだった。
「九時過ぎてもマイケルが来ないから、一度迎えに来たのよ。でも誰も出ないから……」
「ごめんよ、昨日遅くまで呪文の練習をしてたんだ」
「もう行っちゃったのかと思って、教会に行っても居ないし。姉さんもハウルさんも、すごく心配してた」
「あとで謝るよ。……ほんとにごめん」
マーサはしばらく黙っていたけど、ふいに僕の手を握った。
「パーティーが始まる! 早く行きましょ」
そうして駆け出した。ヒールだったから少しおぼつかないけど、僕の手を引いて走るマーサの背を見てると、
ソフィーさんを思い出した。
「マーサ!」
マーサは振り返らないで「何?」と聞いた。
「君、きっとソフィーさんみたいな、素敵な女性になるよ」
するとマーサはぴたりと立ち止まった。耳が赤い。
「もう、マイケルったら!」
そして今度は、ゆっくりと歩き出した。くすくすと笑っている。
僕とマーサが教会に辿り着いたときには、すでにパーティーが始まっていた。新郎新婦は出てきていないみたいだけど、
見たことのある顔ぶれが沢山いた。
教会の入り口の周りには、色とりどりの料理が並んだテーブルがいくつかあって、楽しげな談笑が聞こえてくる。
僕らがその輪に近づくと、その中から僕らを呼ぶ声が聞こえた。
「マーサ、マイケル!」
その声の主は、つい半年前に結婚したばかりのレティーさんだった。となりにはご主人のベン・サリヴァンさんもいた。
「レティー姉さん、マイケルったら、ずっと寝てたのよ」
僕は恥ずかしくなって、俯いていると、サリヴァンさんが声をかけてくれた。どんなに救われたか!
「これから気をつければいい。寝坊なんて、若い男の子なら必ずすることさ、健康の証だよ」
その場が笑いに包まれる。その時、教会の鐘が鳴って、扉が開いた。教会の奥――きっと暖炉があるんだろう――から
カルシファーの声が響いた。
「新郎新婦、登場ー!」
あたりが拍手に包まれる。ソフィーさんは純白のドレスに、白バラのブーケと、同じ白バラのヴェール。
紅い髪が際立ってきれいに見えた。
ハウルさんは……いつもどおり。袖は白いレースがヒラヒラしているし、詰襟は金糸の刺繍が鮮やかだ。
長い金髪は、白バラを一輪挿して留めている。
二人はゆっくり階段を降りて、訪れた人々に白バラを一輪ずつ渡して、お辞儀をしながら回っている。
僕らは輪の一番外側にいたから、二人が僕らのところに来たのは一番最後だった。
僕らに一番初めに気付いたのはソフィーさんだった。
「マイケル! マイケルじゃないの!」
ハウルさんも気付いて、破顔した。
「マイケル!」
二人は僕のほうに駆け寄ってきた。
「どうしたの、式の時は居なかったじゃない!」
ソフィーさんが尋ねると、代わりに答えたのはマーサだった。
「マイケルったら、さっきまで寝てたのよ」
それを弁護してくれたのはサリヴァンさんだった。
「遅くまで勉強していたらしい」
それにハッとしたのはハウルさんだった。ハウルさんは微笑んで、怒ったように頬を膨らませているマーサに言った。
「どうか怒らないで、マーサ。マイケルに課題を与えたのは僕だ。家事もまかせっきりだのに」
ハウルさんは手に持った籠から、バラを一輪取り出してマーサに渡した。それからもう一輪をレティーさんに渡す。
ソフィーさんは自分の籠から白バラを取り出して、サリヴァンさんに渡し、そして僕にも、一輪差し出してくれた。
「ごめんね、マイケル。来てくれてありがとう」
「い、いえ……」
僕はバラを受け取ったけれど、恥ずかしくなって、俯いてしまった。
「マイケルに来てもらってとても嬉しい。マイケルが老婆のあたしを城に置いてくれなかったら、どうなっていたか」
「そうだ、マイケル。お前が居なくちゃ、僕はいまごろ破産してるよ。……お嫁さんもいないし」
そうして、ハウルさんははにかんだようにソフィーさんの頭を抱いた。
「いや、そんな……」
そこでサリヴァンさんが盛大に拍手した。
「マイケルは、二人の縁結びだな」
いつの間にか、その場にいた人々はみんな僕らのほうを見ている。そして、サリヴァンさんの拍手は次第に広がって
いって、あたりは歓声と拍手に包まれた。
ハウルさんは、指をぱちんと鳴らした。とたん、二人が手にしていた籠と、ソフィーさんの持っていたブーケが消えた。
代わりに現れたのは、大きなスーツケース。
「それでは、諸君!」
ハウルさんの声があたりに響いた。人々は静まり返った。こんなイベントは、用意されていただろうか?
「皆さんのお越しに感謝します。今日から、僕とソフィーは、永遠に一緒です」
ハウルさんが腕を差し出すと、ソフィーさんがその腕をとる。ハウルさんが反対の腕を振ると、二人がスーツケースごと、
ふわりと浮かび上がる。
「いざ、ハネムーンへ!」
二人はキラキラ光る粉を振りまいて、ぐんぐん上昇する。
どんどん遠ざかる二人、ソフィーさんの声がする。
「レティー、マーサ、行ってきます!」
僕の横で、マーサとレティーさんが手を振った。
ハウルさんは、僕にメッセージをくれた。
「マイケル、家とカルシファーを頼むよ! それから」
ぱちんと指を鳴らし、にっこりと笑う。
「頑張れよ」
瞬間、僕の手にもっさりとしたものが落ちてきた。誰も気付いていない。
ふわりと香るバラの香り。見なくても解る。
僕は、後ろ手に隠した白バラのブーケをそのままに、反対の手でマーサの手を握った。
「行ってらっしゃい」
おわり
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マイケルは、次世代のハウルのような気がする。
もっと言えば、ハウルとソフィー=未来のマイケルとマーサ。
いや、別にマイケルがナルシストになるとか、そういう話じゃないですけど(^^;
マイケルには、マーサと幸せになって欲しいな。
ハウルとソフィーを追いかけるように…という感じで(*^^*)
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